「そろそろ大規模修繕の時期だけど、何から手をつけていいかわからない」「他のマンションでどんなトラブルが起きているのか知っておきたい」——そんな不安を抱えている管理組合の皆さまは多いのではないでしょうか。
はじめまして。マンション管理士・一級建築施工管理技士の村田誠一です。大手ゼネコンで15年間現場監督を務めた後、マンション管理コンサルタントとして独立し、これまで200棟以上の大規模修繕に携わってきました。
その経験の中で、「もう少し早く知っていれば防げたのに」というトラブルを数多く目にしてきました。大規模修繕は数千万円から数億円の費用がかかる一大プロジェクトです。にもかかわらず、管理組合の方々は修繕の専門家ではありませんから、どうしても情報不足のまま判断を迫られるケースが少なくありません。
この記事では、私が実際に見聞きしてきたトラブル事例を「工事前」「工事中」「工事後」の3つの段階に分けて紹介し、それぞれの具体的な対策をお伝えします。これから大規模修繕を控えている方はもちろん、まだ先だと思っている方にも、ぜひ早めに読んでいただきたい内容です。
目次
マンション大規模修繕で起こるトラブルの全体像
大規模修繕のトラブルは、工事そのものだけでなく、準備段階から完了後に至るまで幅広い場面で発生します。まずは全体像を把握しておきましょう。
| 時期 | 主なトラブル | 深刻度 |
|---|---|---|
| 工事前 | 修繕積立金の不足、修繕委員会の機能不全、コンサルタント・業者との談合 | ★★★ |
| 工事中 | 工期遅延、騒音・臭気クレーム、施工業者の倒産、空き巣被害 | ★★☆ |
| 工事後 | 施工不良の発覚、想定外の追加費用請求 | ★★★ |
ここで注目していただきたいのは、工事前のトラブルが「深刻度★★★」になっている点です。実は、工事中や工事後に表面化する問題の多くは、準備段階での対策不足が原因です。「事前に知っておくこと」がトラブル回避の最大の武器になります。
【工事前】準備段階で起こるトラブル事例と対策
事例1:修繕積立金が足りない!資金不足で工事が進まない
大規模修繕のトラブルで最も多いのが、修繕積立金の不足です。国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によると、修繕積立金が計画に対して不足しているマンションは全体の約34.8%にのぼります。実に3棟に1棟以上が資金不足の状態にあるのです。
私が担当したあるマンションでは、築15年目の1回目の大規模修繕を計画した段階で、約2,000万円の資金不足が判明しました。原因は、新築分譲時に修繕積立金が月額5,000円台と低く設定されていたこと。これは販売時に「月々の負担が軽い」ことをアピールするための策であり、多くのマンションで共通する問題です。
さらに近年は、建築資材の価格高騰や人件費の上昇により、当初の長期修繕計画で想定した費用では足りなくなるケースが急増しています。
対策のポイント:
- 長期修繕計画は5年ごとを目安に見直し、物価上昇を反映させる
- 国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2024年6月改定版)を参考に、積立金額の妥当性を確認する
- 段階増額積立方式を採用している場合、計画どおりの値上げが実施されているかチェックする
- 資金不足が判明した場合は、一時金徴収、金融機関からの借入(住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」など)、工事内容の優先順位付けなどの選択肢を検討する
事例2:修繕委員会が機能しない
大規模修繕を主導する修繕委員会がうまく機能しないケースも頻繁に見られます。
あるマンションでは、修繕委員会を2名で立ち上げたものの、メンバーの仕事が忙しく集まれる日が合わず、結局ほとんどの判断を管理会社に一任してしまいました。その結果、管理会社のグループ会社が施工業者に選ばれ、相場より2割ほど高い工事費が計上されていたことが後から判明したのです。
反対に、委員が10名以上になったマンションでは、意見がまとまらず1年以上も施工業者が決まらなかったという事例もあります。
対策のポイント:
- 修繕委員会の人数は5名前後が適切。年齢や性別に偏りがないことが望ましい
- 定期的な会合のスケジュールを最初に決め、議事録を必ず残す
- 管理会社に丸投げせず、管理組合が主体的に意思決定する
- 専門知識が不足する場合は、第三者の専門家(マンション管理士など)にアドバイスを求める
事例3:コンサルタントと施工業者の癒着・談合
これは業界では「不適切コンサルタント問題」として知られており、2017年に国土交通省が「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」という異例の注意喚起通知を出すほどの深刻な問題です。
具体的には、管理組合の味方であるはずの設計コンサルタントが、裏で施工業者と結託し、自社にバックマージンを支払う業者が受注できるよう不正な工作を行うケースです。管理組合は「公平な入札で選ばれた業者」だと信じていますが、実際は最初から受注業者が決まっているのです。
ある事例では、コンサルタントに業務を依頼したにもかかわらず、実際に調査や設計を行っていたのはコンサルタントではなく施工会社の社員だった、ということも報告されています。
対策のポイント:
- コンサルタント料が極端に安い場合は要注意(バックマージンで補填している可能性)
- コンサルタントの過去の実績や担当技術者の経歴を必ず確認する
- 施工業者の選定プロセスに管理組合が主体的に関わる
- バックマージン禁止の誓約書を提出させることも有効
- セカンドオピニオンとして、別の専門家にチェックを依頼する
【工事中】施工段階で起こるトラブル事例と対策
事例4:工期が大幅に遅延し住民の不満が爆発
「4ヶ月で完了する」と説明された外壁塗装工事が、施工業者の人手不足や天候不良、管理組合との連絡ミスが重なり、実際には10ヶ月以上かかった——こうした工期遅延のトラブルは珍しくありません。
工期が延びると、足場に囲まれた生活が長引くだけでなく、騒音や洗濯物が干せない不便さが続き、住民のストレスは限界に達します。私が関わった現場でも、「いつ終わるのか」「事前の説明と違う」という苦情が殺到し、管理組合の理事長が疲弊してしまった事例がありました。
対策のポイント:
- 契約時に工期遅延時のペナルティ条項を明記する
- 週1回の定例報告会を設け、進捗状況を管理組合と共有する
- 天候リスクを見込んだ余裕のある工程表を作成させる
- 住民への定期的な情報発信(掲示板・チラシ)で理解を求める
事例5:騒音・臭気による居住者・近隣住民からのクレーム
大規模修繕工事ではドリルによるコンクリート斫り(はつり)作業、高圧洗浄、塗装作業など、騒音や臭気の発生は避けられません。特に問題になりやすいのは、「事前の説明と実際の程度が違う」という場合です。
在宅勤務が増えた近年は、日中の騒音に対するクレームが以前より格段に増えています。また、近隣住民との関係が悪化し、工事の一時中断を余儀なくされたケースもあります。
対策のポイント:
- 工事前に居住者・近隣住民に対して説明会を実施し、工期・作業内容・騒音の出る時間帯などを具体的に説明する
- 作業時間を厳守する(一般的に9時〜17時、日曜・祝日は休工)
- 特に騒音の大きい作業がある日は事前に掲示でお知らせする
- 住民からの問い合わせに迅速に対応できる窓口を設置する
事例6:施工業者が工事途中で倒産
これは最悪のケースですが、実際に起こっています。あるマンションでは、工事費の安さを理由に選定された業者が、着工後わずか2〜3ヶ月で倒産しました。足場は組まれたまま放置され、管理組合は新たな業者を探さなければなりませんでした。しかし「途中からの引き継ぎは難しい」と断られるケースも多く、再開までに半年以上を要し、最終的な費用は当初予定の1.8倍にまで膨らんだのです。
一般社団法人マンションあんしんセンターでも、こうした施工業者の倒産トラブルの具体的事例と対策が紹介されています。
対策のポイント:
- 価格だけで業者を選ばず、経営状況(財務諸表、信用調査)を必ず確認する
- 「履行保証保険」への加入を契約条件に含める
- 「住宅あんしん保証」の瑕疵保険への加入も入札条件に明記する
- 前払い金は最小限に抑え、出来高払いを基本とする
事例7:足場設置による空き巣被害
大規模修繕中は建物全体に足場が設置されるため、普段は侵入が困難な高層階でも、足場を利用して容易にベランダから侵入できるようになります。実際に修繕工事中のマンションで空き巣被害が報告されるケースは少なくありません。
対策のポイント:
- 足場の出入り口に施錠設備を設置し、夜間は完全に施錠する
- 防犯カメラやセンサーライトを足場周辺に設置する
- 住民に対して窓の施錠を徹底するよう注意喚起する
- 外から見えやすい透過タイプの養生シートの採用を検討する
【工事後】完了後に発覚するトラブル事例と対策
事例8:施工不良が発覚(塗装剥がれ・防水不良)
工事完了後に施工不良が見つかるトラブルも後を絶ちません。あるマンションでは、外壁塗装の完了からわずか1年後に塗装が剥がれ始め、調査の結果、仕様と異なる不適切な塗料が使用されていたことが判明しました。再施工が必要となり、管理組合は多大な時間と労力を費やすことになったのです。
また、別のマンションでは大規模修繕工事の際に初めて、新築時の施工不良(構造スリットの未設置、コンクリート打設不良など)が発覚し、工事を一時中断して追加調査を行った結果、6,000万円を超える追加費用が発生した事例もあります。
対策のポイント:
- 第三者の工事監理者(一級建築士)を選任し、施工品質を定期的にチェックする
- 中間検査・完了検査には管理組合も必ず立ち会う
- 保証書の内容(保証期間、保証範囲、保証条件)を契約前に詳細に確認する
- 工事写真や施工記録を保管し、後日検証できるようにしておく
事例9:想定外の追加費用を請求された
大規模修繕では、着工後に想定していなかった劣化箇所が見つかり、追加工事が必要になることがあります。これ自体は珍しいことではありませんが、問題は「本当に必要な追加工事なのか判断できない」ケースです。
中には、不要な工事を勝手に施工して追加請求する悪質な業者も存在します。
対策のポイント:
- 契約書に追加工事の承認手続き(事前の書面による承認が必要であること)を明記する
- 追加工事が発生した場合は、別の専門家にセカンドオピニオンを求める
- 予算には10〜15%程度の予備費を計上しておく
- 見積書の内訳を詳細に確認し、単価の妥当性を検証する
トラブルを未然に防ぐための5つの鉄則
これまで紹介した事例を踏まえ、大規模修繕のトラブルを防ぐために押さえるべきポイントを5つにまとめました。
| 鉄則 | 内容 | 具体的アクション |
|---|---|---|
| ①情報収集を怠らない | 大規模修繕の基礎知識を管理組合全体で共有する | 勉強会の開催、先行事例の見学 |
| ②業者選定は慎重に | 価格だけでなく実績・経営状況・担当者の質を総合評価 | 3社以上の相見積り、現場見学会 |
| ③契約書を詳細に | 工事範囲・仕様・工期・保証・追加費用の承認手続きを明記 | 専門家による契約書チェック |
| ④コミュニケーションを密に | 管理組合・業者・住民の三者間で情報共有を徹底 | 週次定例会、議事録の公開 |
| ⑤第三者の目を入れる | セカンドオピニオンや工事監理で透明性を確保 | 独立した建築士への監理委託 |
この5つの鉄則を守るだけで、トラブルの大半は防げると私は確信しています。特に「⑤第三者の目を入れる」は、コンサルタントとの癒着や施工不良といった深刻なトラブルの抑止力になります。
信頼できるコンサルタント選びの一つの参考として、「公正・中立の立場」を経営精神に掲げ、1979年の創業以来、大規模修繕コンサルティングや耐震診断など多くの実績を持つ専門企業もあります。コンサルタントがどのような姿勢で業務に取り組んでいるかを知ることは、適切なパートナー選びのヒントになるでしょう。興味のある方は株式会社T.D.Sで働く魅力とは?「理想の住まい」を共に創る企業も参考にしてみてください。
トラブルが起きたときの相談先
万が一トラブルが発生した場合、一人で抱え込まず専門機関に相談することが重要です。
公益財団法人マンション管理センターは、国土交通大臣指定のマンション管理適正化推進センターとして、管理組合からの相談を無料で受け付けています。大規模修繕に関する疑問やトラブルについて、公平・中立の立場からアドバイスを受けられます。詳しくは公式サイトの相談窓口のご案内をご覧ください。
このほか、管理会社との問題は「一般社団法人マンション管理業協会」、法的な対応が必要な場合は建築紛争に詳しい弁護士への相談がおすすめです。また、住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル:0570-016-100)でも、建築士による無料の電話相談を受けることができます。
まとめ
マンション大規模修繕のトラブルは、「修繕積立金の不足」「コンサルタントとの癒着」「施工業者の倒産」「施工不良」など多岐にわたります。しかし、その多くは事前の準備不足やコミュニケーション不足、不適切な業者選定に起因しています。
この記事で紹介した9つのトラブル事例と対策、そして5つの鉄則を頭に入れておくだけで、リスクは大幅に軽減できるはずです。
大規模修繕は、マンションの資産価値を守り、住民の皆さまが安心して暮らし続けるために欠かせない工事です。「知らなかった」「まさかこんなことになるとは」という後悔をしないよう、早い段階から情報を集め、管理組合が主体的に取り組んでいただければと思います。
もし不安なことがあれば、公的な相談窓口や専門家の力を借りることをためらわないでください。皆さまの大規模修繕が成功することを心から願っています。



