生産技術コンサルタントの桜井です。
前職では車載ECUやパワーモジュールの放熱材塗布ラインを見ていました。
このテーマ、現場で本当によく相談されます。
「月産数百個だから、まだ手混ぜでいけますよね?」と。
私の答えはいつも同じで、「個数では決まりません」です。
何で決まるのかを、今日は整理してみます。
目次
そもそも、なぜ今ギャップフィラーの話が増えているのか
放熱材の中でも、液状のギャップフィラーの存在感が年々大きくなっています。
富士経済が2026年3月に公表した車載電池用TIMの世界市場調査では、2035年の市場規模を1,524億円(2024年比176.4%)と予測しています。
そのうち8割以上をギャップフィラーが占めるという内容でした。
シートではなく液状が選ばれるのは、隙間の形が読めないからです。
セルの膨張やうねりを吸収しながら密着させるには、その場で流し込むほうが都合がいい。
つまり、塗布工程は今後も減りません。
ここをどう回すかは、腹を決めておいたほうがいい論点です。
手作業で粘れるライン、粘れないライン
私が現場を見るときに確認するのは、この3点です。
- 混合比が100:100に近いか、100:10のようにシビアか
- ポットライフが何分か
- 塗布量のばらつきが、製品の熱抵抗にどれだけ効くか
比率が偏るほど、硬化剤側のわずかな計量ブレが全体の反応に響きます。
そしてポットライフが短いほど、混ぜた樹脂を使い切れずに捨てる量が増えます。
可使時間は感覚で語られがちですが、JIS K 6870で測り方が定められています。
材料メーカーのデータシートを読むときは、この前提を押さえておくと解釈を間違えません。
手作業でいちばん怖いのは「混ざったか分からない」こと
計量ミスは、あとから記録で追えます。
一方で混合不良は、目視で判定できません。
色の変化がない材料では、撹拌が足りているかどうかを作業者の感覚に委ねることになります。
高粘度でフィラーが多い放熱材は、特に混ざりにくい部類です。
そして混合不良は、たいてい市場に出てから発覚します。
熱がこもって初めて、あの日の一台が疑わしくなる。
これが手作業の一番のコストだと、私は思っています。
もう一つ、法令側からの圧力もあります
安全衛生の枠組みも変わりました。
厚生労働省は化学物質による労働災害防止のための新たな規制として、化学物質管理者の選任やばく露を最小限にする自律的な管理を事業者に求めています。
2023年から2024年にかけて段階的に施行されました。
樹脂を人が容器で計って手で混ぜる工程は、この流れの中では説明が難しくなってきています。
装置化は品質の話だと思われがちですが、安全衛生の話でもあるということです。
専用機に替えると何が変わり、何が増えるか
期待できるのは次のあたりです。
- 混合比と吐出量が設定値で再現される
- 連続混合になるため、混ぜ置きによる廃棄が減る
- 作業者が樹脂に直接触れる場面が減る
- ロボットと組み合わせれば塗布経路まで固定できる
一方で増える手間もあります。
ミキサの洗浄や交換、材料を替えるたびの条件出しです。
ミキサ方式の選択も避けて通れません。
使い捨てのスタティックミキサは洗浄が不要でポットライフの短い材料に強い反面、粘度差や偏った混合比では混ざりきらないことがあります。
ダイナミックミキサはその逆で、難しい材料に強いかわりに洗浄とメンテナンスがついてきます。
放熱材は摩耗性のあるフィラーを高濃度で含みます。
だからこそ、カタログの粘度範囲だけで決めず、自社の材料で実際に吐かせて確かめるのが結局は近道です。
こうした計量・混合・吐出の動きは、文章より映像のほうが早く理解できます。
協働ロボットと組み合わせた放熱用2液ギャップフィラーの混合吐出デモを紹介したページでは、実際の動作が動画で確認できるので、社内で説明するときの叩き台にも使えます。
相談する前に、この数字を揃えておいてください
装置メーカーに問い合わせると、必ず聞かれる項目があります。
- 主剤と硬化剤それぞれの粘度と比重
- 配合比率
- ポットライフ(何分か、そのときの温度は何度か)
- 1ショットあたりの吐出量と吐出時間
- 1タクトの時間と1日の稼働時間
ここが埋まっていないと、話が「検討します」で止まります。
逆に埋まっていれば、方式の絞り込みは一度の打ち合わせで進みます。
まとめ
専用機か手作業かは、生産量ではなく材料と工程の条件で決まります。
混合比がシビア、ポットライフが短い、混ざったかを検査で保証できない。
このどれかに当てはまるなら、手作業で粘るほど不良と廃棄が静かに積み上がります。
まずは自社の材料の数字を紙一枚にまとめてみてください。
それだけで、判断はかなり具体的になります。



